手話の「関西弁」はどんな特徴? 大阪は身ぶり大きく


カテゴリ:手話, 関西



関西で電車に乗っていると、手話でやりとりする女子学生グループが隣に座った。何を話しているのかは分からないが、いかにも楽しそうだ。ふと「手話には方言がたくさんある」と知人から聞いたのを思い出した。彼女たちの手話は「関西弁」なのだろうか。どんな特徴があるのか。ふつふつと疑問が湧き、関西のろう者を訪ねることにした。

■基本的な単語にも異なる手話

 「手話は、ろう者同士のコミュニケーションから生まれたもの。話し言葉と同様に、ごく自然に方言ができたんですよ」。手話教室「関西手話カレッジ」(大阪市中央区)の講師、矢野一規さん(62)が教えてくれた。関西でも大阪、京都、兵庫などで手話に方言があり、大阪や京都でも地域によって違いがある。数字の「100」など基本的な単語も、大阪や京都、和歌山ではそれぞれ異なる手話が使われているという。

 手話も、方言にお国柄は表れるのだろうか。大阪の手話は「両手を使って大きな身ぶりで表現するものが多い」と矢野さん。例えば「まさか!」を表す場合、両手の手のひらを胸の前で大きく打ち合わせる。他の地域では片手で拳を胸に当てたあと「パー」と開いて突き出す、コンパクトな動作が多いそうだ。

 京都の手話も独特と聞き、京都市聴覚障害者協会(京都市中京区)を訪ねた。事務局長の川本悟さん(45)は「京都の暮らしや町の様子に密着している手話が多いようです」と話す。


例えば「白」は、はけで頬におしろいを塗るしぐさ。伝統産業で働くなかで生まれた手話も多く、「黒」は墨をする動きだ。高齢者が多く使う手話には、中指で手のひらをこすって「色」を表現する手話もある。染料を溶く動作がもとだという。

■最近まで手話を授業で教えず

 日本のろう学校では最近まで、唇の動きを読んだり発声したりしてコミュニケーションを図る教育を重視し、手話を正式な授業では教えてこなかった。このことも、地域ごとに方言が使われている背景にあるという。

 一方、ろう学校で生まれた手話もあると聞き、大阪市立聴覚特別支援学校(大阪市中央区)を訪れた。教諭の前田浩さん(59)が、右手を右頬の横で後ろ向きに振る手話を見せてくれた。「できない」という意味で、野球のファウルを表す審判のサインがもとらしい。「本校は寄宿舎が学生の生活の場。独自の手話が生まれ、引き継がれたようです」

■手話も時と共に変化

 それほど様々な手話があると、他の地方に行った時に苦労するのでは。「『標準手話』があります」と矢野さんが教えてくれた。日本手話研究所(京都市右京区)などが協議し、共通の手話を決めているという。主に手話通訳士や後天的に聴力を失ったろう者が学び、テレビ番組や講演会などの手話通訳で広く目にする機会も増えてきた。

 ただ「地域の手話は地域の文化。大切にしたい」と前田さんは話す。「見れば大まかな意味が伝わるのが手話の特徴。地域ごとに違っても、さほど不便ではないんですよ」(矢野さん)

 話し言葉と同様に、手話も時とともに変わる。全国に広まるものもあれば、廃れる手話もあるという。京都では年に1~2回、ろう者が数百人集まり、手話について話し合いを重ね「京の手話」という冊子をまとめてきた。高齢のろう者を訪ね、古い手話も収集しているという。

 取材を通していくつか関西の手話を覚えたが、まだほんの入り口。たくさん覚えるほど、景色の色鮮やかさが増すような気がする。新たな楽しみを、またひとつ見つけた。

(大阪社会部 佐野敦子)

[日本経済新聞大阪夕刊いまドキ関西2012年9月19日付]